前回の⇒彼女との距離を縮めるのに最大のチャンス到来。
の続き
要人警備当日、
私と玲子さんは、20メートルくらい離れた交差点に配置され、要人が通過する際の警戒に当たるのが業務だった。
さらに要人通過前の時間帯には、交差点の向かいにある広い森林に不審者や不審物がないかを二人で一緒に警戒することも業務だった。
彼女と二人で森の前に立った。
管内とはいえこの森に入るのはもちろん初めて。
実際に目の前に立ってみると、奥も深そうで、背の高い木が多い茂っている
そのため、10メートルも入って行けば、日中であってもかなり薄暗そう。
男の私でも一人で入るには少し勇気を必要とする、そんなレベルの森林だった。
玲子さん「ここにこんな大きな森があったんですね。道もないし、薄暗いし、ちょっと恐いですね。一人ずつ別れて周るんじゃなくて、二人で一緒に警戒でいいですよね」
本職「うん、おれもその方がいいです。一緒に行きましょう」
こうして、警察官の制服姿の男女二人が暗―い森に入って行った。
人が歩行するための道など整備されていない
歩くたびに、枝を踏むパキっという音がなる。
伸び放題に伸びた草をかき分けながら入っていく。
自分たちが入ってきた道路が見えなくなるくらいまで奥まで進むと、日中とは思えないほど暗くなった。
そして涼しい。
玲子さん「ここで何かあったら、〇〇さん(私のこと)だけが頼りですからね。絶対離れないで下さいね」
本職「おれ、力はないけど足だけは速いから任せて下さい」
玲子「ちょっと💦、それって一人で逃げるって意味ですか?」
彼女が笑った。
私にとっては二回目の笑顔だ。笑うとやっぱり可愛かった。
私は思わず、自然と口から出た
「玲子さんて普段ホント笑わないですよね。だから今笑顔を見れたのって貴重ですね」
玲子さん「よく愛想がないって言われるんです。怒ってもないのに、怒ってる?とか言われたり。あ、前に〇〇警部補さんが言ってましたよね」
彼女はあの時、私の上司の警部補が大声で冷やかしたことを覚えていたようだった。
彼女がそのことをここで言ってきたことに驚いた
私は何て言おうか悩んだ
パターン①「玲子さんの笑顔が可愛いって言ったのは本当です」ってジャブを打ってみる
パターン②「ほんと○○警部補さんはすぐあぁやって大げさに言うんですよね。」と軽く流す
パターン①を言いたかった。しかし、彼女がどんな反応をするか。
反応次第では、自分がガッカリするかもしれない
私にはその勇気すらなかった
無難、、というか、自分が絶対に傷つくことのないパターン②しか言えなかった。
「ほんと○○警部補さんはすぐあぁやって大げさに言うんですよね。」
彼女は「やっぱり○○警部補さんが大げさに言ってたんですね。ほんとセクハラおやじですよね」
と言った直後だった。
彼女が「ちょっと、何これ!」
なんだろうと思ったら、彼女が腰につけていた警棒に、草のツルのようなものが絡まってしまっていた。
彼女は、自分の体をねじって、それを取ろうとしているがうまくいかない。
なんだかトゲトゲしているツルだったようで、取るのが難しいようだった。
「いっ、痛い。なんかトゲみたいのついてる」
中々取れなくて困っていたので「取りますよ」と私から言った。
当然、お互いの距離はかなり接近する。
体をねじって腰のあたりを見ようとしている彼女の顔と、ツルを取ろうとしている私の顔はほんとにわずかな距離に近付いた。
ツルを取っている最中、彼女の顔を見れなかった。
完全に意識してしまっていた。
絶対に誰も来ない薄暗い場所で、彼女とこんなに接近していることを完全に意識してしまっていた。
もし目が合ったら、バレてしまいそうで目を合わせられなかった。
もう少しで取れそう、というところで彼女が突然
「ほんとすいません。手怪我しないで下さいね。
○○警部補さんの言ってたことって大げさな話なんですか?」
後半部分に、あまりにも予想外なことを言われて思わず顔を上げてしまった。
彼女と至近距離で目が合った。
お互い固まった。
至近距離で見ると、顔が小さくて肌もきれいだった。
薄暗いのがさらにドキドキを高めた。
彼女は何も言わない。私の答えを待っているようだった
どうしよう・・。何て言おう。いい方に賭けていいのか、でも・・。
「笑顔がかわいかったって言ったとこまでは本当ですよ」
これが私に言えた精いっぱいの返事だった。
彼女はまだ黙っていた。
まるでもうひと声、もう一言を待っているかのようだった。
もしもう一言を待っているとしたら、私がどんなことを言うべきかはさすがの私も想像がつく。
しかし、勇気のない私は、緊張感に耐えきれずにこの空気を切ってしまった
「あぁもう取れますから」
そう言って、視線を彼女の目からツルに戻して、ツルを取り終えた
「取れましたよ」
「うん、ありがとうございました。助かりました」
お互いまた距離が離れた。
この後、また変な空気になることはなかった。
それなりに業務を遂行して森を出て、車の音がうるさい道路に戻った。
私の少ない恋愛経験からすると、あの瞬間、もしかしたら顔を近付けてキスしようとしたら、できたんじゃないかと思った。
制服の警察官同士が勤務中にそんなことをしたら、もし発覚したら懲戒処分ものだ。
でも今思い返すと、いっちゃえばよかったなぁというのが本音だ。
やっちゃいけないことほど、・・・って思うのは私だけでしょうか。
それをやろうと思えばできたチャンスはあの時だけ
でも、もしキスしようとして
「何やってるんですか?制服で勤務中に信じられない」
と罵られて警棒で殴られて、修復不能な関係になって、その後二人で森の警戒なんてとてもできないようなことになっていたかもしれない。
私には勇気がなかったんです。
彼女がそういうつもりじゃなかった時のリスクが大き過ぎた。
でも今思えば、、勇気を出して賭けてみればよかったと思う。
彼女はなんでもう一度聞いてきたんだろう?
そして、なんて答えを待っていたんだろう?
この後、彼女とは一切何もなく、異動によってお互い別々の職場になることが決まりました。
次はその最後の送別会の時のこと。 次で終わりです。
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