知られざる社会の一面。一人暮らしの女性の家で感じた違和感の理由

警察官が見た社会の闇

警察官は大多数の日本人が知らない社会の一面を見る機会が多い仕事

今回は、ある事件の捜査で行った一人暮らしの女性の家。

その女性の年齢は30歳前後。まだ若い。

しかし、彼女の家には週に数回介護ヘルパーが行っていた

私たちはその介護ヘルパーが訪問する時に一緒に行った。

 

その家は、古い公営団地の一室。

玄関ドアもこういう感じ

介護ヘルパーは何度も来ていて、家の鍵を持っていて入ることができる

インターフォンを押すことなく、いきなり玄関ドアを開けて中に入る

インターフォンする押さないのか、とちょっと違和感を感じた。

 

室内に入り、リビングまで行くが、その間物音は一切しない。

あれ?と思った

この時間、彼女は家にいると聞いてきたのに留守なのかな、と思った

 

介護ヘルパーに聞いた

「出かけてますかね?」

「いいえ、この時間は寝ているんです」

どうやら奥の部屋で寝ているようだった

 

「もう少ししたら起きてきますよ」

そう言いながら介護ヘルパーは、台所で食事を作り始めた

 

家の中は整然としていた。

しかし、この団地の間取りは、女性が一人暮らしをするにはかなり広い

3LDKくらいあった。

しかし、私は室内に入った時から何か違和感を感じていた

何かがしっくりこない

 

そう思いながら、リビングにあるサイドボードを見た時に、自分が感じていた違和感の理由が分かった

サイドボードというのはこういう家具

ガラス越しの中に見えたのは、古い骨とう品や、旅行先で集めたような土産品

どう見ても、30歳前後の女性が飾りそうなものではなかった

 

そう、この家に入った時から感じていた違和感。

それは、女性の一人暮らしの家という感じではない

むしろ、家族・親子で住んでいるような家だった。

そもそも間取りは広いし、冷蔵庫もダイニングテーブルも大きくて、一人で使う大きさではない

30歳くらいの女性が選びそうもない箒や食器。

そう、食器も明らかに多い。

 

本当に一人暮らしなのか?

そんなことを考えていると、リビングの向こうのドアがガチャっと開いた。

 

背の高い女性が、いかにも寝起きという顔でパジャマ姿で入ってきた

 

「あーおはよう○○さん」

介護ヘルパーが声を掛けた

彼女は介護ヘルパーを一度ちらっと見たが、言葉は何も発することなく、私たちが座っていたダイニングテーブルの開いている椅子にそのまま座った。

 

頭や肩をボリボリ掻きながら、視線はテーブルを見ていて、時々私たちのことが気になるようでチラっとこちらを見ている

しかし、目には生気がまったくない。

寝起きということを差し引いても、うつろな目だった。

 

「はい、どーぞ」

作った食事を介護ヘルパーがテーブルに置くと、彼女はぼそぼそと食べ始めた

 

彼女が黙って食べている間に、介護ヘルパーが私たちが違和感を感じていることに気が付いたのか、彼女のことについて教えてくれた

それを聞いて、私は、、、こんな人生を送っている人がいるのかと思ってしまった

 

私が感じていた違和感はやはり正しかった

この家は数年前まで、この彼女の両親や兄弟合わせて4人が住んでいた

しかし、彼女以外の3人は別の場所に引っ越して一緒に住んでいる

なぜか。その理由は彼女のうつ病だった。

 

簡単に言えば、うつ病になった彼女と一緒に住むことに耐えかねた家族は、彼女をここに一人残して、別の場所に移り住んだのだ。

そして、一人では生活できないことを知っているために介護ヘルパーを頼んだ。

 

彼女は、働くどころか一切外出することなく毎日を過ごし、唯一接する人間は介護ヘルパーだけ。

食事は、介護ヘルパーが来た時に作り置きして冷蔵庫に入っているものを食べている。

一年に数回だけ、母親が見に来るだけということだった。

 

ホームヘルパーがベランダを指さした

4畳くらいはありそうな広いベランダだった

「あのベランダの床を見て下さい。色が変わっているところがあるでしょう。あそこはね、以前彼女を閉じ込めておく部屋があったところなんです」

 

家族4人で住んでいた時、うつ病の彼女が室内にいることを嫌がった家族は、ベランダに板で部屋を作り、そこに彼女を閉じ込めていたという。

広いベランダとはいえ、大人が横になれるかどうかの広さだ。

 

「私が初めて来た時はひどかったですよ。ベランダ中は排泄物だらけで、ものすごい臭いでした」

「彼女もまったくお風呂に入っていなかったようで、髪の毛は固まり、顔はまっ黒でものすごい臭いでした」

 

そんな時期を経て、彼女は今こうしている

 

うつ病はかなりひどかったらしい

20代半ばで一気に重い症状になり、その後よくなることはなかったらしい。

両親たちの苦労も相当なものだったと想像できる

両親たちを責めることもできない

 

お互いにとって、離れて暮らしてよかったことは間違いなさそうだった。

 

彼女はこの先どんな人生が待っているのか

幸せな時間や素敵な時間を過ごす時があるのか

 

日本にもこういう人たちがいるんだと知って衝撃を受けた

多くの日本人が見ることのない社会の一面を見た経験のひとつだった




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