警察官として危険察知能力が身についてきたことを確信した出来事

元警察官@motokeisatuです

警察学校を卒業して交番勤務になり、二年くらい経った時のこと。

長い夜勤を終えて朝を迎え、さらにそこから7時間残業をして、ようやく退勤できたのが16時頃

ほぼ半同棲していた(職場には無許可)彼女の家に向かって電車に乗り込んだ。

電車に乗ってすぐだった。

携帯電話の着信音が鳴った・・。

ポケットから電話を取り出して、画面を見ると職場の警察署からと表示。

なんだかすごーく嫌な予感がした。

言葉では説明できないけど、この電話に出ても自分にとって何一ついいことはないという予感がした。

 

しかし、電車の中であっても、電話に出ないとキチガイのようにキレる幹部もいる。

画面には署の番号しか表示されないため、電話を掛けてきているのが誰かまでは特定できない。

どうするか・・・。

迷った。

無視しよう、と決断した。

署を出た時点で、私の頭のスイッチは彼女と思いっきりやることしか考えていない。

男なら誰でもわかると思うが、もうすぐやれると思ったのに、それができなかった場合、最低でも翌日までは立ち直れない。

それを台無しにしてきそうな電話になど出るものか。

そう決断して、そのまま電話をポケットに入れ戻した

電車内で私の携帯電話の着信音が鳴り響いている

近くにいる人は絶対に思っているはずだ

なんでこいつは電話が鳴っているのに何もしないんだ

 

電話に出ないのであれば、ボタンを押して着信を切ればいい。

 

うん、そんなことはわかっている。

しかし、それはできない、というかしたくないのだ。

 

相手が切る前にこちらがボタンを押して切ってしまうと、少なくとも私は着信に気が付いていたことが相手にはわかってしまう。

相手が切るまで無視し続けて、相手が根負けして受話器を降ろせば、私は着信があったことに気が付かなったことにできる

だから、私は鳴り響く着信音を止めることができないのだ。

たまたま私の近くに来てしまったあなたたちには申し訳なく思う。

しかし、あと数十秒もすれば鳴りやむはずだ。もう少しだけ我慢して下さい

せめて、音を発しているスピーカー部分を手で塞いで音を小さくするから

 

そんなきまずい思いをしながら耐え忍ぶ

・・・

しつこい・・

・・・

どうやら敵も簡単には引き下がるつもりはないらしい

私が気が付くまで鳴らし続けるくらいの強力な意志を感じた

いよいよ、これは電話に出なかった場合けっこうやばい案件かもしれない

しかし、私はもう出ないと決めたのだ

課長?係長?知ったことか。まさか署長なんてことはないよな

いやいや、負けてたまるか

 

あ!いいことを思い出した

私の携帯電話は留守番電話が設定されていた

確か1分半で留守番電話に切り替わるはずだった。

あと少しだ。

・・・

ようやく切れた。

 

さて、敵は留守番電話にメッセージを入れてくるだろうか。

もしでかい事件発生などで非常招集であれば絶対に入れてくる。

大した要件でなければ入れてこないだろう

頼む。留守番電話に何も入らないでくれ

しばらく画面を見ていた

ッ!!!!

留守番電話が表示されてしまった。

ダメか。今日は彼女とやれないのか。やりたいことをたくさん決めていたのに。

 

すでに少し胃がキリキリし始める

とりあえず留守電は聞こう。

本当に非常招集であれば、さすがに諦めてさっさと次の駅で降りた方がいい。

 

「新しいメッセージが・・1件。メッセージを再生します」

「あ、〇〇です。」それは、私が勤務する交番とは別の交番の交番長(警部補)からだった。

「あー、実はうちの交番の〇〇(警察学校を卒業したばかりの若手)が、装備品をひとつ紛失してしまって。今若い人たちに集まってもらってみんなで探してもらってるんだ。わるいね」

ここで電話は切れていた。

「わるいね」ってなんだよ。

これは、つまりお前も今から来いってことなんだろうな。

しかし、電話の内容には「来てくれ」とは一言も入ってなかった。

理屈っぽくいえば、「わるいね」の意味はよくわからない。

装備品を失くしたというだけの連絡であれば、警部補が私にわざわざ電話してくるわけがない。

つまりこれは、言いずらいからはっきりとは言えないけど、お前も捜索を手伝いに来いということを遠回しに要求していきているのだ。

 

曇りから雨になりかけていた私の心は一気に快晴になった

すでに残業7時間やってようやく退勤した直後で、そんなことに協力するほど私はお人よしではない

警察学校卒業早々にそんな大変なことをやらかしてしまった彼は相当打ちのめされているだろう。

一刻も早く見つかってほしいとは思う。

しかし、そもそも若手だけにやらせるっていうやり方がとても気に入らない。

なぜ若手だけなのか。

こういうグレーな部分はとても多い

これは正規の召集ではない。

形式的には、善意によるボランティアだ。

だから、今から署に行くとして、また捜索中に何かのアクシデントで怪我を負ったとしても労災にはならない

もちろん時間外手当なども出るわけがない

そのくせ、ほぼ強制なのだ。

協力しない方が悪者になる

 

でも、行かない。

まぁ行かなかったことで次の勤務の時にゴチャゴチャ言われるのは間違いない。

しかしそのストレスと、今日のこの後の楽しみを奪われるストレスを比較すると、ゴチャゴチャ言われる方を断然選ぶ。

電話は気が付かなった、留守電を聞いたのは夜になってからだった

これでいいや

もちろん電話を折り返すこともなく、そのまま彼女の家に向かって、滞りなく予定を遂行した

次の勤務日、やはりその警部補からゴチャゴチャ言われた

「来なかったのはお前だけだ」「仲間意識があるのか」「それでも警察官か」

仲間意識というものが、私の感覚とはずいぶんちがっているようだった。

 

紛失した装備品はその日のうちに見つかったらしい。

 

もしあの時、電話に出て直接言われていたらさすがに断れなかっただろう。

現場を二年しかやっていない青二才と、50歳を過ぎた警部補じゃ勝負にならない。

 

署からの着信というだけでイヤな予感がして出なかったのは大正解だった。

どうやら自分にも危険察知能力が身についてきたらしい

自分も一人前の警察官になってきてる。

それを感じさせてくれた電話だった。

 

 

 

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